大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(く)84号 決定 1964年8月12日

少年 K・M(昭一九・三・二九日生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の要旨は原決定が本件の如き些細な道路交通法違反事件に対する保護処分として少年を少年院に送致したことは納得できないし、少年はこれまで仕事や生活の面で過ちがないように自ら注意して来たのであるから少年院送致の処分が、性格矯正のため特に効果があるとも思われない。原決定は失当であるからその取消を求めるというにあるものと解される。

よつて本件少年保護事件記録及び少年調査記録を調査し当審事実取調の結果を勘案して考察するに、少年は昭和三五年六月傷害、恐喝の非行により保護観察決定を受け、更に同年一〇月窃盗の非行のため試験観察決定を受け補導委託されたが同年一二月前件保護観察継続のため不処分決定を受け帰宅を許されその後運送店に雇われ自動車運転等の業務に従事していたもので本件に至るまで一般の非行はなかつたがこの間、車両の無免許運転により五回に亘り罰金刑に処せられ、更に本件非行に及んだのであつて、なるほど本件道路交通法違反事件は、幸い些細な物件被害を生じたに止まる軽微な車両運転事故に終つたとは言え、少年の粗暴な運転態度は重大事故発生の危険性を有し、右非行歴に見られる反社会的生活態度が矯正を見ることなく本件に発現したものと認められ事態は看過し難いものがある。しかも少年は現に肺結核に罹患し今後約一ヵ年の加療を要する症状にあることが窺われる。ところが少年は、自己顕示性が強く情緒不安定で意思が弱く自力による交友関係の改善、長期に亘る計画的療養生活の規律調整は不可能であると考えられる上に、実父亡き家庭における実母、姉夫婦の保護能力には到底十分な信頼を措くことができない。これらの点にかんがみると、少年を在宅せしめて保護観察を継続するよりはむしろ国家的矯正療養の施設に収容し、長期計画に従い心身の矯正療養に服せしめるのが相当であると思料される。されば原決定が少年に対し医療少年院送致の決定をしたのは相当であつて本件申立はその理由がないものと言うべきである。

よつて少年法第三三条第一項後段に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 小林健治 判事 遠藤吉彦 判事 吉川由己夫)

参考二

抗告申立書

少年 K・M

右の者に対する道路交通法違反事件について昭和三九年二月一八日医療少年院に送致する旨の言渡を受けましたが別紙記載の理由によつて不服につき抗告を申立てます。

昭和三九年三月二日

抗告申立人 K・M

東京高等裁判所御中

(別紙)

抗告理由

一、私は、交通事故、交通違反により少年院送致の決定を受けましたが、私のような事故、違反の多い者が大ぜい居ると思いますが、私はこのような処分を受けた事が納つとく出来ません。

二、今迄、自分は仕事などの生活面においても自分ではきちつとやつて来たつもりです。性質などをなおすために少年院に来たと言うなら、本当の気持、性質が変るとは思いません、これからの一年間がその面においては無意味と思います。

昭和三九年三月一日

抗告申立人 K・M

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例